「君のお兄さんがね、見つかったそうだよ」 なんでも、西方の森で人間と一緒に暮らしているらしい。 そんな言葉を受けて、ライルさんは驚きに目を見開いて振り返りました。 其処には、ライルさんを呼び出した張本人である一人の吸血鬼が立っています。 葡萄色の髪に真っ赤な目、丸い眼鏡、細い身体にはやっぱり細身の真っ黒なタキシードを着て、その上へ薄手のコートを羽織っています。 リジェネ・レジェッタ侯爵、吸血鬼一族の最高権力者にあたる老師の一人です。 「ご冗談を、老師」 ライルさんは僅かな笑いを零しましたが、レジェッタ侯はちっとも笑いません。 「僕は嘘はよく吐くけれど冗談は言わないよ、ロックオン・ストラトス。それに、人払いをしてあるからいつも通りの話し方でかまわない」と口にして、ソファに腰掛けます。 その白い指先が勧めるのに従って、その向かい側のソファに腰掛けると、ライルさんは鬱屈した溜め息を吐きました。 ついにこの時が来てしまった、そんな風に思っているのです。 その様子を見たレジェッタ候が「知っていたんだね」と言うと、ライルさんは「ああ、」と短く答えました。 そうして、重苦しい表情で尋ねます。 「議会にはもう話がいってるのか?」 「"話がいってる"?そんな手温い扱いではないよ。議会はすでにストラトス伯から爵位を剥奪することを決定している。それから、彼を一族から追放するそうだ」 「そんな、」 ライルさんは、掠れた声でそう漏らしました。 それきり、言葉をなくしてしまいます。 彼がそうなってしまったのは、無理もありません。 吸血鬼たちにとって、老師の集まる議会で可決された事は絶対です。 そして、一度可決された事項が覆される事は決してありません。 つまり、ライルさんのお兄さん、ストラトス伯の爵位の剥奪と一族からの追放令は、どうあっても変えられないのでした(爵位の剥奪はともかく、追放令は処刑に次ぐ厳罰です。追放された吸血鬼に出会った場合、たとえ彼(或いは彼女)を殺したとしても"同族殺し"の罪にはならないものですから、暇を持て余した心無い吸血鬼たちはこぞってそれを追い始め、捕まえたら、私刑と称して嬲るのです。ストラトス伯が狙われれば、一緒にいるティエリアさんだってただでは済みません)。 血の気が引いて、顔が真っ白になってしまったライルさんに、レジェッタ候は言いました。 「非純血種を受け入れるならまだしも人間と暮らすだなんて、いくらストラトス伯爵家が僕の庶流にあたるといっても、庇いきれるものではなかった。それに、今回のことは"厄介払い"も兼ねていたらしい。君のお兄さんは吸血鬼にしては些か矜持が低いようだから、議会は彼を鬱陶しく思っていたようだね」 レジェッタ候がそこまでを言うと、ようやくライルさんが口を開きました。 その両手は、固く握られています。 視線は、テーブルの上の小さな傷へ留められています。 「…兄さんは、ただ人間と解り合いたいだけだ」 搾り出された呻きが、低く転がりました。 レジェッタ候は、「そうだね、」と答えます。 「けれど、それは純血種の吸血鬼にとって赦されざる罪だということを、ましてやそれを他の同胞にまで広げるのは大罪だということを理解しなければ駄目だ。純血種の吸血鬼は矜持を持たなければならない。自分が人間よりも優れている、という矜持を」 矜持があったればこそ、こうしていられる。人間を同等に見て馴れ合ってごらん、たちまち情が移った挙句、食事なんか出来なくなって、瞬く間に灰になってしまうだろう。歯に衣着せずに言ってしまうなら、君のお兄さん一人ならかまわないけれど、一族全体にそれが及んでしまっては困るんだよ。純血種が減少を続けている今は尚更だ。 そう言ったレジェッタ候を、ライルさんは静かに、けれども酷く憤った表情で見ています。 でも、どうすることもできません。 議会の可決が覆ることはありませんし、レジェッタ候が言った事は正しいのです。 矢庭に立ち上がったライルさんに、レジェッタ候が声をかけます。 「何処へ行くんだい?」 「兄さんのところへ、」 早く知らせないと、兄さんもティエリアも逃げることさえ出来ない。 ライルさんはそう言い残して、お部屋を出て行ってしまいました。 後に残ったレジェッタ候は、浅く息を吐きます。 少し眩暈がしていました(3年ぶりに起きたばかりでまだ身体が本調子ではないうえ、早速嫌なお話を聞いたり話したりしてしまったものですから、どうにも気分が優れないのです)。 真っ赤な目が、ゆっくりと瞼に隠れてゆきます。 そうして、そっと、ソファへ埋もれました。 レジェッタ候とライルさん 2008.11.30 上 au.舞流紆 本編でフォーマル着てたのでもういっそリジェネさんが老師とかどうだろか、 (この設定でのリジェネさんとライルさんは主従関係だったりしますが、リジェネさんは敬語が嫌いなのでタメ口を推奨してます) ※ライルさんが「ロックオン・ストラトス」と呼ばれているのは、「双子の吸血鬼は名前を共有する」ならわしがあるからです、 |
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