ご存知のとおり、ストラトス伯はあばら家の家事の一切を任されています。
大抵の家事は鼻歌交じりにこなすストラトス伯でしたが、けれども、たったひとつだけ苦手にしている事がありました。
お掃除です。
苦手、といいましても、ストラトス伯は綺麗好きでしたから、お掃除自体は好きでした。
ただ、ティエリアさんの私物が床に積まれているのが難点なのです。
ティエリアさんは私物、特にヴェーダさんの遺したものを他人に触られるのが大嫌いでしたが、本棚へ入りきらずに床へ高く積まれている本は、その殆どがヴェーダさんの遺品です。
しかも、ティエリアさんは置かれている本の位置が0.5センチずれているのにも気がついてしまうほど神経質なタイプでしたから、彼が見ていないからといって迂闊に本に触ることは出来ません。
おかげで、本の山の周りの床はなんとなく埃っぽいまま、日々が過ぎてゆきます。
この問題を如何に上手く解消するか。
それが、このところのストラトス伯の目下の悩み事でした。
でも、最近のストラトス伯は、何か良い方法を見つけたみたいです。



ティエリアさんが薬草畑へマンドラゴラの様子を見に行った隙に、長い長いベロアのマントを脱いで、腕まくりをしたストラトス伯が、チチチ、と舌をならしますと、天井から、ぽたぽたぽたっ、と丸いものが落っこちてきました。
真っ黒鼠と真っ白鼠、それから、小さな灰色鼠の三匹です。
ずっと前からあばら家の天井裏に住みついているこの三匹の鼠は、今ではストラトス伯のマブダチをしています(どの程度のマブダチかと言いますと、ティエリアさんに隠れて一緒にお茶を飲むくらい、です)。
テーブルの上に綺麗に並んだ三匹のお友達に、ストラトス伯は布切れ(先日夜なべして縫った小さな小さな雑巾です)を渡して言いました。

「今回もそれなりの出来栄えを期待しているので、よろしく」

そうです。
もうお分かりの通り、ストラトス伯は考えに考えて、この小さなお友達にお掃除を手伝ってもらう事を思いついたのでした。
ストラトス伯の言葉を聞くと、三匹はぱっと散って、簡単にはお掃除出来ない場所目掛けて走り出しました。
真っ黒鼠は箪笥の裏、真っ白鼠は作業台の下、一番小さな灰色鼠はティエリアさんが積みっぱなしにしている本の山々の隙間が担当区分です。
それを見届けたストラトス伯は、軽く腕まくりをし直して、自分のお仕事に取り掛かります。
三匹が布切れを上手に使ってお掃除している間、ストラトス伯とハロはもっと大雑把な箇所のお掃除をするのです(シンクやバスタブや窓を磨いたり、カップを洗浄液に浸け込んで茶渋を落としたりと色々ありますが、今日は戸棚の中を重点的にやる予定です)。
そのような具合で、一人の吸血鬼と一匹の使い魔と三匹の鼠は、よく働きました。
テーブルの上には、よく絞った小さな小さな雑巾が何枚も用意してありましたから、三匹の鼠はせっせと磨いては新しい布切れに持ち替えてゆきます。
そうして、綺麗な布切れが無くなって、汚れた布切れが小さな山を作る頃には、あばら家はすっかりピカピカになっていました。
勿論、ティエリアさんの大事な本の山の周りも、です。
それぞれが、ほ、と息を一つ吐いて、古びたテーブルの周りに集まります(鼠たちはテーブルの上へ綺麗に並んでいます)。

「よし、」

ストラトス伯はあばら家の中を眺め回して一つ頷くと、絞ったタオルでよく手を拭いて、ポケットから朝に炒っておいたナッツを取り出し、それを一粒ずつ、鼠たちに渡しました。
御礼代わりのナッツです。
お掃除が済んだ後は、みんなでお茶をするのが恒例になっているのでした。
ストラトス伯は最近新調したばかりのティーセットで紅茶を淹れて、そんなストラトス伯の膝へ上がりこんだハロの上で、鼠たちはナッツを齧ります。

「仕事の後の一杯は美味いな」

ストラトス伯が言いますと、三匹の鼠たちも、キュキュ、とお返事しながら頷きます。
真っ黒のタキシードのズボンへ、ほんの少しだけナッツの薄皮のカスが落ちてきますが、ストラトス伯は気にかけません。
鼠たちがナッツを齧る軽快な音を聞きながら、紅茶を味わっています。

一人の吸血鬼と一匹の使い魔と三匹の鼠の、仕事後のささやかな楽しみは、ティエリアさんが帰ってくるまで続きました。

ストラトス伯と
小さなお手伝いさんのおはなし

2008.8.19   上 au.舞流紆
ハロウィンパラレルその9、
ストラトス伯のメルヘン度がとうとう某夢と魔法の王国に並びました、































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