ロックオン・ストラトス、というのは、実はストラトス伯の本当のお名前ではありません。
どういうことかといいますと、上流社会の吸血鬼には、お名前を二つ持つ、というしきたりがあって、本当のお名前の他にもう一つ、別のお名前が与えられるのです。
ロックオン・ストラトス、というのは、その別のお名前の方で、ストラトス伯の本当のお名前は、ニール・ディランディといいました。
でも、この本当のお名前は、絶対に口に出してはいけないのです。
名前というものには、物事の根っこのところを縛るほどの力がありますから、迂闊に口にして誰かに聞かれてしまえば一大事です。
特に、吸血鬼のように大きな魔力を持っている生き物たちにとっては、本当のお名前を知られる事は命を握られる事と同じでしたから、彼らは同胞にさえそれを明かしたりはしませんでした。
けれども、ストラトス伯は何処までも風変わりな吸血鬼だったようです。



ティエリアさんは表情を変えませんでしたが、やっぱり少しは驚いているようで、しばらくの間、だぼだぼのローブの袖を摘んだり放したりしていました。
ストラトス伯が、自分の本当のお名前を口に出したのです。
どういうつもりですか、と尋ねたティエリアさんに、ストラトス伯は至って普通に返します。

「自己紹介は大事だろ、」

まあ、流石に日常生活で使われるのは困るが。
のんびりとした調子でそんな事を言うものですから、ティエリアさんは、今度はちょっと顔を顰めてます。
ティエリアさんは吸血鬼を退治するハンターでもなければ、魔物退治のエキスパートでもありませんでしたが、それなりのノウハウをヴェーダさんから叩き込まれてきました。
そこでは勿論、人間の最大の敵とも言える吸血鬼に関する事もあれこれと教えられたので、吸血鬼の本当のお名前が持つ意味も、それを他人に教える事の重大さも知っています。
それだけに、ストラトス伯がなんだか不気味な存在に思えるのでした。
なにせ、知り合って日も浅い、しかも、自分を退治しようとしていた相手に、手放しで命を預けてしまうのとおんなじ事なのですから。
俄かには信じられないティエリアさんは、口の中だけで、ストラトス伯に教わったお名前を呟きました。
確かに、先日封じ込めたものとおんなじ魔力の質が舌に溶けました。
どうやら、本当の本当に、本当のお名前のようです。
首の辺りをチリッと掠める感覚に、ストラトス伯は、ティエリアさんが用心深くも確認をした事を知りましたが、別段哀しくはありませんでした。
こちらが吸血鬼で、あちらが人間である以上、信用されなくて当たり前だからです(それほどに吸血鬼と人間の間の溝は深いものでした)。
二人して長い間立ち尽くし黙りこくった後、結局、ティエリアさんは何も言わないで薬草畑に行ってしまいました。
あばら家にぽつんと取り残されたストラトス伯は、うまくいかないなあ、なんて思いながら、ぽりぽりと頭を掻きましたが、そのうちに仲良く出来るさ、と前向き思考で一人頷いて、ひとまずお夕飯の支度に取り掛かります。

その夜のビーフシチューを、ティエリアさんがとても複雑な気持ちで食べたのは、言うまでもありません。

ストラトス伯とティエリアさんと
二人が知ってる秘密のおはなし

2008.8.4   上 au.舞流紆
ハロウィンパラレルその8、まだ仲良くなる前
何処まで原作の設定を盛り込むか模索しています…、































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