ある冬の日の朝のことです。
家庭菜園兼薬草畑の様子を見に行こうとあばら家から出たティエリアさんは、庭先でおばけに出くわしました。
とても大きな、今迄に見たことの無いおばけです。
身の丈は2メートルほど、真っ白な身体には節のある腕が二本はえていて、その先っちょはものすごくとんがってます。
真っ黒な目に、またしてもとんがった鼻。
口許は、ニヤ、とつり上がっていて、いかにも腹に一物抱えていそうな風情です。
頭の上には、ブリキで出来た帽子のようなものを被っていますが、きっと中から恐ろしいアレやコレが出てくるに決まっています。
ティエリアさんは、こんなものが村へ行って暴れては大変だ、と思い、何か対策を練らなければ、とも思ったのですが、けれども、そのおばけの後ろで揺れているものを見ると、そんな冷静さも一気に吹っ飛んでしまいました。
ヘイゼルのくるくる巻き毛に、真っ黒なベロアのマント。
未確認おばけの影にいるのは、間違いなく、ストラトス伯です。

(なんてことだ!)

ティエリアさんは、おばけにとっ捕まってしまっているらしいストラトス伯を助けるべく、辺りを見回して武器を探したのですが、手近なものがありません。
そーっと、でも、素早く飛び込んだあばら家にもめぼしいものはありませんでしたから、仕方なく、目に付いた大きなフライパンを引っ掴んで、またお外へ飛び出します(もうこの際相手にダメージを与えられれば、何でもかまわないみたいです)。
おばけは先程とおんなじ位置へ不気味に突っ立っていて、その後ろではストラトス伯がもぞもぞしています。
きっと、縄でぐるぐる巻きにされたり、おかしな術をかけられたりして、動けなくなってしまっているに違いありません。
ティエリアさんは、フライパンの柄を握り締め、ぐっとお腹へ力を溜めます。

「っ、…万死に値するッ!!!」

そんなようなことを喚きながら、全速力でおばけに駆け寄っていって、そうして、その頭をフライパンでぶっ叩きました。
真正面から容赦無く、しかも、思いっきり、です。
幸いにも、おばけの身体は脆かったようで、がんっ、という鈍い音や手応えと一緒に、一撃で崩れてしまいました。
どうやら、おばけの身体は雪で出来ていたみたいです。
勝った、なんて思う暇も無く、ティエリアさんはおばけの残骸である雪を掻き分けて、ストラトス伯を探します。

「ロックオン!」

たくさんの雪の下にいたストラトス伯は、きゅう、と目を回して、伸びてしまってました。





その少し後、あばら家にあるティエリアさんのベッドの上では、ストラトス伯が頭の天辺にできたたんこぶをさすっていました(結構大きなたんこぶです)。
さすりながら、ストラトス伯はティエリアさんに尋ねます。

「ティエリア、雪だるまとか作ったことないのか?」
「雪だるま?それはどんなものですか?」

真面目な顔で首を捻るティエリアさんに、ストラトス伯は、「あー…」と呻いて、天井を見上げました。
本当に知らないのか、なんていう風に思っているのです。
そんなストラトス伯に、ティエリアさんは、ますます首を捻るばかりです。


つまり、先程のあらましを簡単に纏めて説明しますと、こうです。
いつもより大分早くに朝一番のお仕事を終えたストラトス伯は、たくさん積もっている雪を見て、久しぶりに童心に返って雪だるまを作ろうと思い立ちました。
どうせ作るなら大きく、綺麗に作って、ティエリアさんに驚いてもらおうと思ったものですから、ちょっと気合をいれて、雪玉を三段重ねにした立派な雪だるまを作ったのです。
腕には大ぶりの木の枝を使って、薪割り小屋にあった古いブリキのバケツを帽子にしました。
目には凍って黒ずんだクルミの殻、鼻には木の欠片、口には小さな石ころを幾つか埋め込んだので、ちょっと笑っているように見えます。
そんなわけで、なかなかの力作ができたのですが、背丈が高い分、どうにも地べたに接している部分が不安定に思えたので、ストラトス伯は、雪だるまの後ろ側に雪を盛って補強をしようと考えました。
そこに、ティエリアさんがやってきたのです。
補強に夢中になっているストラトス伯には、ティエリアさんの姿は見えません(雪だるまをおばけだと勘違いしているティエリアさんは、声と気配を殺して諸々の行動をしていたものですから、余計に気が付きませんでした)。
ティエリアさんはティエリアさんで、雪だるまをおばけだと思い込んでしまっていますから、後ろにいるストラトス伯がおばけにとっ捕まってしまっていると思いこそすれ、その"おばけ"の足元の補強をしているだなんて、ミジンコほども考えません。
かくして、ティエリアさんは大きなフライパンで雪だるまをぶっ叩き、雪だるまの影にいたストラトス伯はフライパンに頭の天辺を襲撃されて、きゅう、と伸びてしまったのでした。


文化的な活動には全く興味がなかったらしいヴェーダさんに育てられたティエリアさんですから、やっぱり、文化的な活動にはものすごく疎いみたいです。
ストラトス伯は人差し指で顎を突付きながら、ティエリアさんに雪だるまの説明をしてあげます。

「ええと、雪を丸めたやつを幾つか重ねて作る人形みたいなもので、木とか石とかで腕を付けたり顔を書いたりするんだが…、まあ、その、お前がさっきフライパンでぶっ叩いたやつのことだよ」
「あれがそうですか。 ……あれが、雪だるま?」

ティエリアさんは、ようやく自分の勘違いに気が付いたみたいです。
顔を耳まで真っ赤にして、「では、あの時叩いた手応えは、」と呻くので、ストラトス伯は仕方なく(本当は黙っていようと思ったのですが)、「…俺の、頭」と言いました。
ティエリアさんの手から、万が一おばけが息を吹き返した時のためにと握り締められていたフライパンが、ごとり、と落ちて、くわんくわん、と鳴りました。



その日の午後、ストラトス伯は掌サイズの小さな雪だるまを作って、ティエリアさんにあげました。
まともに見る初めての雪だるまに、いつもは顰めっ面ばかりしているティエリアさんが少しだけ嬉しそうな顔をして、それを見たストラトス伯がたんこぶの痛みをちょっとだけ忘れてしまったのは、当然と言えば当然なのかもしれません。

ティエリアさんと
真っ白おばけのおはなし


2008.12.21   上 au.舞流紆
ハロウィンパラレルその14、ニュータイプロマンス1月号表紙のティエリアさんを元ネタに、
(しかしフライパンが鉈や斧だったら…、)






























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