最近のストラトス伯は、街嫌いのティエリアさんに代わって、街までお買い物に行ったりします。
街は大きくって、お店の立ち並ぶ大通りはいつでも賑わっています。
へんてこな形の魚、鮮やかな色の果物、良い匂いのするお花にお茶の葉、異国のランプ。
ストラトス伯は400年以上生きているわけですが、そんな彼の目にも新しいものがたくさんあります。
けれども、このところのストラトス伯が一番興味を持っているのはそういった珍しい品物に関してではなくて、街の人間たちがしている行動に関してでした。
唇と唇とをくっつける動作、所謂"キス"というものについてです。
何を隠そう、吸血鬼文化には"キス"という行為は存在しませんでした。


もうご存知の方も多いとは思いますが、吸血鬼文化における愛情表現は、首筋やら鎖骨やら項やらの辺りを咬んだり咬まれたりすることです。
それから、それに伴って、相手のことをぎゅっとするのもまた、彼らの愛情表現の一つでした(そうすることで体温や脈拍なんかもわかりますから、相手の体調をよく知ることもできるのです)。
それらはみんな、吸血鬼のトレードマークとも言える牙がキスをするのにはあまり向いていなかったために、芽生えた表現方法です。
では、吸血鬼の間には、唇と唇とをくっつける行為は存在しなかったのでしょうか。
答えは、いいえ、です。
吸血鬼の間にも、唇と唇とをくっつける行為自体は存在しました。
けれどもそれは恋愛とは全く無縁で、家族の間でのみ行われる行為だったのです。
つまるところ、"食料の口移し"でした。
吸血鬼といえば、牙で人間の身体に穴を開けて、其処から血を頂くことで知られていますが、生まれたばかりの赤ん坊の吸血鬼や小さな子供の吸血鬼の牙や顎の力では、そんなことはできません。
ですから、牙と顎の力がきちんと育つまでは、お父さんやお母さん(多くの場合、お母さんです)が子供たちに口移しで血を与えるのが、極普通の光景なのでした(コップや何かに血を移して飲ませればいいじゃない、と思われる方も多いとは思いますが、吸血鬼の場合、それでは駄目なのです。彼らは血液に含まれるヘモグロビンだとかそういったものを摂取しているのではなくて、血液が持っている呪力、謂わば"生命力"を糧にしていて、それは容器なんかへ移してしまうとたちまち消えてしまうのです。ゆえに、傷口から直接飲むか、口移しで飲ませてもらうかのどちらかで摂取しなければならないのでした)。


そんなわけですから、ストラトス伯は、街中でカップルがキスをしているのを見る度に首を傾げています。

(随分若く見えるが、もう歯が弱いのか?でも、人間は血を飲まなきゃ生きていけないわけじゃあないんだし、それだったら、口移しをしてもらうんじゃなくて、オートミールか何かを食べればいいだろうに。というか、そもそも何かを食べてるようには見えないんだよなあ、なんだろう、)

そんな風に思いながらも、さりげなく視線を逸らして、お買い物を続けます(以前、物珍しくてつい凝視してしまったところ、ものすごく気まずそうな顔をされてしまったものですから、それからはなるべく速やかに視線を逸らすようにしているのです。もちろん、その時のストラトス伯が「そんなに気まずいことかなあ」と思い、「ああ、口移しなんて小さな子供がしてもらうことだから、恥ずかしいのか」と勝手に納得したのはいうまでもありません)。


ストラトス伯が、唇と唇とをくっつける行為が"キス"であるということを知り、その意味するところを理解して、たいそう恥ずかしいやら居た堪れないやらで顔を真っ赤にするのは、もっとずっと後のことです。

ストラトス伯と奇怪な行動のおはなし

2008.11.17   上 au.舞流紆
ハロウィンパラレルその13、
吸血鬼は食物連鎖のヒエラルキーの頂点にいますが、人間よりも動物寄りの生き物です、
(というか、西洋的な分類からすれば彼らはまったき動物ですね、)






























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