小さなあばら家におかしな同居人が転がり込んできたその日のお昼、ティエリアさんは薪割り小屋の中から大きな箱を引っ張り出していました。
ティエリアさんはマッチ棒みたいな身体つきのわりにはそれなりに力持ちでしたが、箱の方も随分と重さがありましたから、流石にちょっとお疲れ気味のようです。
肩で息をしているところへ、手持ち無沙汰な様子のストラトス伯がやってきました。
ストラトス伯は、人間に捕まってあまつさえ魔力まで封印されてしまったというのに、昼の間中興味深げに木の幹を触ったり、白い野の花を眺めていたりする、相当おかしな吸血鬼です。
そして、これからティエリアさんの同居人になる吸血鬼でした。

「何してるんだ?」

そんな風に尋ねてきたストラトス伯に、情けないところを見られてしまったティエリアさんは少しだけむすっとして(といっても、ティエリアさんの仏頂面は通常仕様でしたから、あまり表情は変わらなかったのですが)答えます。

「貴方の寝床の用意です」
「寝床?」
「吸血鬼は棺桶に入って寝るのでしょう。ですが、此処にはそんなものはありませんから、この箱で我慢してください」

ティエリアさんはそう言いながら、大きな箱を横目で見ました。
とてもではありませんが棺桶とは似ても似つかない箱で、ストラトス伯が入るとなると膝を抱えて入らなければいけないようなものでしたが、とりあえず箱は箱です。
ティエリアさんはたいそう真面目な人間でしたから、相手は吸血鬼とはいえ、生活環境はそれなりに整えてやらなければならないだろうと思ったのでした。
なにより、不適格な環境は余計なストレスのもとで、ストレスを溜め込んだ吸血鬼が大暴れでもしたら一大事です。
ところが、「そのうち葬儀屋でも呼んで、」と言いかけたティエリアさんに、目をぱちぱちしていたストラトス伯は、声をあげて笑い出しました。
最早大笑いを通り越して、爆笑の領域に到達しています。
ティエリアさんは、気でもふれたか、と顔を顰めつつも臨戦態勢に入りました。
けれども、ストラトス伯は白い手袋をはめた手で目の端に浮いた涙をちょっと拭っただけで、こう言ったのです。

「死人でもないのに棺桶に入って寝るわけないだろ」

なんだかすごい誤解のされ方をしてるんだなあ、俺たちって。
そう言って、まだ低く笑い続けます。
ティエリアさんは、ヴェーダさんの遺したデータが間違っていた事にびっくりするやら、恥ずかしいやらで、頭が真っ白です。
そんなティエリアさんを知ってか知らずか、ストラトス伯はティエリアさんの肩を優しく叩いて、お気遣い感謝するよ、と言いました。



結局、気を取り直して「では、床と藁の山、どちらがいいのですか?」と尋ねたティエリアさんに対し、「シーツがあるなら藁山希望」と言ったストラトス伯の意思が尊重されて、彼の寝床は今のような藁の山になったのでした。

ストラトス伯とティエリアさんと
大きな箱のおはなし

2008.9.13   初出
2008.10.31   加筆修正 au.舞流紆
ハロウィンパラレルその11、ストラトス伯がやってきた初日のおはなし、
このおはなしの吸血鬼は「死人」ではなくて「種族」と定義されています






























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