ある雨の日のことです。
紅茶を淹れていたストラトス伯は、何処からか不思議な音が聞こえてくるのに気がつきました。
よくよく耳を澄ましてみますと、それはどうやらベルの音のようです。
でも、一つの音だけではなくて、色んな音階の音がしているみたいでした。
音楽に聞こえなくもありませんでしたが、それにしては纏まりの無い奏で方をされていましたし、一度に本当にたくさんの音がするものですから、ストラトス伯はちょっと首を傾げます。
一体、何の音なのでしょう。
疑問に思ったストラトス伯は、紅茶を淹れ終えると、ティエリアさんに尋ねてみました。
すると、こんな答えが返ってきたのです。

「それは、花の音です」
「花?」
「ええ、ノーラという花の」


ティエリアさんが言うことには、深い深い森の奥、険しい崖を上った辺りの場所に"ノーラ"という名前のお花が咲いているのだそうです。
ノーラの花はホタルブクロのような釣鐘型をしていますが、葉や茎を含めた全体が乳白色の硝子質で、雨粒がその表面を打つ度に花弁とおしべとがぶつかって、音を出します。
そして、この音で虫を寄せて、花粉を運んでもらうのです。
法則上、より虫を寄せやすい花が生き残っていくわけですから、ノーラの花の音は小さいながらも高く、澄んでいて、ものすごい豪雨でない限りはあばら家にも微かに届くのでした。


「綺麗な音だな」

一連の説明に感心しつつ、そう笑ったストラトス伯に、ティエリアさんは「作業の邪魔にはなりません」と答えて、紅茶を一口飲みました。
いつもどおりの仏頂面と不機嫌声でしたが、その言葉がティエリアさんなりの最大の賛辞だという事を知っているストラトス伯はにっこりして、今度ティエリアと一緒にノーラの花を見に行くのも良いなあ、なんて思ってます。

窓の外からは、小さなベルの音が、そっと聴こえてきます。

ストラトス伯とティエリアさんと
雨の歌声のおはなし

2008.9.3   上 au.舞流紆
「saccharine」のzai様へ。沢山の感謝を込めて。
※お持ち帰り等を始めとする個人の範囲内での複製はzai様にのみ許可しております






























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