椅子に座っているニールさんの手から、ポロッとビジュアル・ファンブックが落ちました。
その拍子にパソコンのスピーカーに刺さっていたイヤホンが抜けて、女の子の派手な喘ぎ声が漏れ始めます。
けれども、ニールさんはスピーカーのボリュームを絞ったりだとか、ファンブックを拾ったりだとか、そんなようなことは出来ませんでした。
彼の目は、唐突に開け放されたドアを凝視しています。
其処にいたのは、リジェネさんでした。
黒のショートパンツに、同じく黒のニーソックス。
ざっくり編まれたサマーセーターの袖は長めで、指先がちょっと出ている程度です。
大きな眼鏡をかけた小さな顔は、にこにこしています。
この見たことの無い、折れそうなほど細い子が、果たして女の子なのか男の子なのか、といったことを考えるより先に、ニールさんは「うわ、かわいい」と思っていました。
そんなニールさんを見て、ガッツポーズをしたのは、リジェネさんの後ろにいたライルさんです。
所謂「掴みはオッケー!」というやつで、とってもチャンス到来でしたから、間髪いれずに「兄さん、紹介するよ」と畳み掛けます。

「リジェネ・レジェッタ。半年前から俺と付き合ってる。リジェネ、これが俺の双子の兄さん。名前はニールだ」
「よろしく、ニール」

ライルさんの紹介を受けたリジェネさんが、にっこり笑って手を振りましたが、ニールさんは「うわ、かわいい」と思った時のままで固まっています。
ニールさんは、リジェネさんに見惚れてしまっていました。
どうやら、想像以上に効いてるみたいです。
「これはイケる」と拳を握ったライルさんは、相変わらずにこにこしているリジェネさんと、最早石化状態になってしまっているニールさんに握手をさせると、至って真面目な顔で「それじゃあ、後は任せるが、」と言います。

「リジェネ、兄さんはド素人だ。本人が望まない限り、過激なプレイは避けてくれ。あと、三次元に恐怖を持たれると厄介だから、必要以上に強請ったり迫ったりしないように。あくまで本人の意思と主体性がなけりゃ意味が無いってのを念頭におきつつ、三次元がべらぼうにイイことを教えてやってくれ。大袈裟じゃなく、兄さんの明日はお前の腕にかかってる」
「やれるだけやってみるよ。…あ、ねえ、ライル」
「なんだ?」
「もし足りなかったら後で相手してくれる?」
「明日と明後日はオフだから、好きなだけ付き合ってやるよ」
「良かった」

じゃあ、また後でね。
ヒラヒラと手を振るリジェネさんに、「期待してるぜ」と手を振り返しながら、ライルさんはニールさんの部屋を後にします。

(兄さん、頼むからなんとか男になってくれ…!)

そう思っているライルさんは、後ろから聞こえてくるガタンゴトンという派手な音を、聞こえないふりでやり過ごしました(どうせ、我に返ったニールさんが椅子から転げ落ちたか何かしたに決まっているのです)。





その5時間後のことです。
一階の居間で新作AVの企画書(タクシー運転手がお客さんをアレコレするとかいう内容です)に目を通していたライルさんは、二階から誰かが降りてくる音に気が付きました。
二階にいるのは、ニールさんか、リジェネさんです。

(リジェネか?)

そう思ったライルさんですが、その予想は外れてしまいました。
幾らかの間を空けて居間へ入ってきたのは、ニールさんです(手には水の入ったコップを持ってましたから、キッチンで汲んでからきたのでしょう)。
なんだかぼーっとしながら水を飲んでいるニールさんに、ライルさんが「リジェネは?」と尋ねますと、「二階でエロゲやってる…」というお返事が返ってきます。
そして、ぼーっとした表情のまま、ニールさんは「なあ、ライル」と言いました。

「三次元って、すごいんだな…」

そう呟いたきり、ニールさんはコップの水をちびちびと飲むばかりです。
ライルさんは企画書をテーブルへ置くと、小さく頷きながら、ニールさんの肩を労うようにぽんぽんと叩きました。


この数ヵ月後、ニールさんは三十路直前にして人生の転機を向かえ、いわゆる"運命の人"と出会うのですが、この時の彼は、まだそれを知る由も在りません。

おたにる。 3

2009.2.22   上 au.舞流紆
ニールは どうていを そつぎょう した! ▽
作業用BGM:結束のコマンド運動会Full@2525動画、AKB48楽曲、オケ風チーターマン(…)






















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