ニールさん、という人がいます。 身長は185センチ、体重は67キロ、欧米人体型で手足は長く、メタボとは無縁のスレンダーさんです。 髪はどんなヘアアイロンでも太刀打ちできない、凄まじくくるくるした天然パーマでしたが、本人は特にコンプレックスは抱いておらず、周りの人からも「よく似合ってる」と言われます。 定職にも就いていて、もうすぐ30代にさしかかろうという、一番良い頃合の若者だったりします。 それから、女の子や子供に優しいフェミニストで、後輩君たちの面倒なんかもみたりする気のいいお兄さんだって、好評価もついてました。 そんな具合にイケメン街道を驀進するニールさんでしたが、彼にはたった一つだけ欠点がありました。 「此処の選択肢って何だったっけか…」 そんな事を呟きながら、ニールさんはパソコンに向かってます。 画面では、可愛くってツルペタな女の子がニコッと笑っていて、かつ、『ニール君は、キリンさん好き?』という文字が下の吹出しに出ています。 そして、その文字の下には、『うん、好きだよ』、『ゾウさんの方がもっと好き』、『何よりも君が好きだ!』という選択肢が点滅していました。 そうです。 お察しのとおり、ニールさんはとってもオタクなのでした(ちなみに、「彼女いない歴=生きてきた年数」の筋金入り、当然ながら童貞です)。 そんなオタクなニールさんには、双子の弟がいます。 ライルさんです。 ライルさんは、AV男優のお仕事をしています。 年収がスーパーモデル並の超売れっ子で、容赦ないドSド鬼畜プレイと言葉責めに定評があります。 ニールさんとは違って、二次元にはそこそこにしか興味が無いライルさんは、昨晩から部屋に篭って新作のギャルゲー攻略に勤しんでいるお兄さんのことを、「いい加減なんとかしないとヤバい」と、常々思っていました。 ですので、ニールさんをなんとか三次元の世界に引っ張り出すために、今日も勢い良くニールさんの部屋のドアを蹴破ります。 「兄さん、女の子引っ掛けに行くぞ!!」 「断る!!!」 即答です。 いつもの如く、バッサリ却下です。 ライルさんの方を見ようともしないニールさんは、俺は忙しいんだ、と言わんばかりにマウスを連打してます(デートイベントにつきものの、ミニゲームをしているのです)。 わりと大人気ないですが、毎度のことですから、ライルさんもそうそう傷付きません。 引き攣った笑顔で、下手に出ます。 「たまには可愛い弟に付き合ってくれたっていいだろ。なんだったら、胸がぺったんこでニーソックス穿いてて…なんだっけ、ほらアレ、絶対領域?そんなんがある可愛い子紹介するからさ」 こんな具合で、ニールさんのツボを的確に押さえた子をちらつかせて、なんとか誘い出そうとするのですが、敵は実に頑なでした。 「ツルペタでニーソで絶対領域があるのは良いが、残念ながら三次元は守備範囲外だ。他をあたってくれ」 そんな具合で、パソコンに齧り付いたままです。 しかも、鬱陶しそうに手で追い払う動作までするのです(同時に、「今日はすっごく楽しかった!また明日、学校でね!」なんて女の子の声がスピーカーから流れてます。どうやらデートは成功したみたいです)。 これには、流石のライルさんも憤慨しました。 バン!と壁を叩いて、声を張り上げます。 「いい加減にオタクから足洗えよ!ニート卒業してやっと就職したかと思ったらエロゲ会社勤めだししかも通勤に痛車使うし土日は引き篭もってずっとギャルゲかエロゲしてるしたまに出かけたかと思えばオフ会か即売会か声優イベント!挙句の果てには俺まで引っ張りこんで壁際の大手サークルの列に並ばせやがって!しかもショタだぞ!あの時の俺がどれだけ恥ずかしい思いをしたか兄さんにわかるかよ!!!!」 もはや魂の叫びです(ライルさんのお仕事の方がよっぽど恥ずかしいような気がするのは、横に置いておきましょう。ライルさんにとっては、カメラの前で嫌がる女の子や男の子を押さえつけて口には出せないようなアレやコレをする事よりも、一冊のショタ本を買うほうが精神衛生上によっぽどよろしくないのです)。 息継ぎもせずに言い切ったライルさんに、思わず振り返ったニールさんも負けじと叫びます。 「馬鹿野郎!!エロゲはもはやこの国を支えるビジネスの一つだ!誇らしく思うことこそあれマイナス要素を見出す箇所が何処にある!大体お前はオタク文化の素晴らしさを微塵も解ってないんだ!最初は冷たかった彼女が極稀にデレた時の喜び、同じ趣味を持つもの同士で語り合う時に得る充足感、オタクは金がかかるが手に入るものは全部プライスレスだ!!!ショタの列に並ばせたのは、まあ、悪かった。次はツルペタをお前に任せる」 やっぱり一息に言い切ったニールさんと、息切れしてるライルさんの視線が交わります。 交わって、バチバチ音がしてます(ライルさんは内心で「ショタとかツルペタとかそんなんが問題なんじゃねえよ!俺を有明に連れてくなって言ってんだよ!」と思ってます)。 この一週間後、ライルさんはとうとう最終兵器を投入し、ニールさんを三次元の世界に引き戻すべく全面戦争に挑むのですが、それはまた別の機会にお話しするとしましょう。 おたにる。 2008.11.18 上 au.舞流紆 反省はしていない、 |
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