損傷した右目は、もう治らない。
けれども、その残酷な宣告に、片方だけ残ったターコイズグリーンの瞳は何気なく瞬いただけだった。震えもしなかった。高いところから卵を落とせば割れる、という事を知覚しているのと同じ様に、自分の右目が戻らない事を理解し、受け入れているようだった。
彼は眠っている(まだ左目を長時間に渡って酷使する事には慣れていないのだという)。
照明を落とした室内に浮かび上がる、その穏やかな白い寝顔に、謝るな、と口にした時の彼の笑みが瞼の裏を過った。

「謝る?」

呟き、唇を歪める。
誰が謝るものか。大体にして、あんなものを何時頼んだというのだろう。助けてくれ、と叫んだ覚えもない。
全て彼の自己満足だ。自己犠牲などという形だけは美しい欺瞞を押し通したに過ぎない。
むしろ、誰よりも何よりも被害を被ったのは此方だ。断じて彼ではない。
握り締めた掌の中で、ロックオンの指が僅かに軋む。額へ押し当てると、仄かな温かさが伝った。ただそれだけの事、謂わば日常に在って然るべき事項に安堵する。
どうせ守ったつもりでいるのだろうが、他ならぬ"ティエリア・アーデ"こそがこの失態の最たる犠牲者なのだという事実に、眼下に眠る男は気付いているのだろうか、

(俺はもう彼からは逃れられない、僕はもう彼に「好きだ」と言えない、私は、)


跪くうつくしき負債者

2008.3.9   上 au.舞流紆
愛した分だけ逆ギレ、(本編のティエリアはしおらしかったですね、)















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