確認を、と言われ、見せられたものは、家族では無かった。
顔と思しき場所には、ぐずぐずに溶け崩れた肉が在るだけだ。生温い風に揺れる焦げて縮んだ髪、奇妙にくすんだ衣服。もう一つ見せられた死体は顔が半分残っていたが、残りの半分はやはり焼け爛れた肉と骨だった。
三つの肉塊は愛する父母や妹ではなかったけれども、俺は頷かなくてはいけなかった。その塊が父の愛用していた時計や母の結婚指輪を付け、妹のお気に入りの服を着ていたからだった。


テロの混乱は落ち着いてきていた。
身元の確認を終えた死体から順に、広場から運び出されていく。合同葬儀が出されるのだという。死体には、また元通りにシートがかけられていた。
あちらこちらから啜り泣きや呻きが聞こえてくる。
薬品が間に合わず、麻酔も無く処置を受ける男が叫んでいた。
痛い、やめてくれ、いたい、ちくしょう、死んだほうがマシだ。
喚いては手を振り回し、何人かの救護隊員に押さえつけられていた。
俺は、だったら死ねばいい、と思って、小石を蹴った(痛いのがなんだというのだろう。父も母も妹もみんなみんな瓦礫に潰され、爆風に顔を焼かれた。きっと俺の家族の方が痛かったのに、如何して彼はあんなに暴れているのだろう。俺の家族はもっと痛かったのに暴れない、叫びもしない、)。
小石は硝子の破片にぶつかり、宙へ高く飛んでから落ちた。耳へ乾いた音が届く。俺の目は空を見ている。
火災の煙が漂っている箇所以外は、綺麗な青色をしていた。昨日の空よりも綺麗だ。
ふいに肩を叩かれて振り返ると、三つの死体が板で作られた担架に乗せられ、運び出されるところだった。指示に従って付いていく。
シートから、小さな白い腕が零れ落ちた。転んで創ったような、小さな擦り傷が幾つか在る。俺のよく知っている妹の腕だった。
涙が滲み出てきて、その後暫くの間止まらなかった。

ヘブンリィ・ブルー

2008.3.5   上 au.舞流紆
運命の日、






















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