トレミー内の通路で差し出されたのは、何処にでもあるスコッチのボトルだった。
あまりに唐突な事だったので、瞬く事しか出来ずにいると、ティエリアは俺の方を力の限りに睨め上げた。

「差し上げます」
「え、あ、ああ、どうも」

たった六文字の言葉に何かただならぬ凄みか殺気のようなものを感じて、思わず受け取った後も、ティエリアは動かなかった。暗血色の瞳は此方をじっと見ている。表情は険しい。
礼の仕方に誠意がなかったとか、そういう事を言いたいのだろうか。けれども、それにしては眉間の皺の様子がいつもと違うようにも思える。それより、何故彼が俺にスコッチのボトルを寄越すのだろう。彼は昨日まで作戦行動のために地上へ降りていたから、宇宙にいた俺への土産のつもりだろうか。解らない事だらけだ。

「ティエリア、」

とにもかくにも会話だ、と思い呼んだ俺に、ティエリアはびくりと肩を揺らして、苦虫を噛み潰したような顔をしたかと思うと、今度は一目散に通路の奥へ消えてしまった(低重力だというのに何故ああも脱兎の如く動けるのだ)。
一体なんだというのだろう。
通路に取り残された俺は、如何にもすっきりしない気分で頭を掻き、手渡されたボトルを眺める。よく飲む銘柄のスコッチだった。
今夜は久々にこれを引っ掛けるのも良いなあ、と切り替えも早く、暢気な気分でいる俺が、それがティエリアからの三日遅れの誕生日祝いだった事に気が付いたのは五日後の事だった(当然の如く瓶は空、もっと味わって飲むべきだったと後悔したのは言うまでも無い)。

アフター・オール

2008.3.6   上
2008.3.16   改稿 au.舞流紆
ロックオン誕生日おめでとう、遅れてすまない …と言いたかったティエリア、そして私

























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